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「…長門さん。」
「俺が、もっともっと若くて、嫁さんも子供もいなかったら…晴香ちゃんを誰にも渡さない。
そして、もし、今と同じ結果になるのなら、俺が、女としての最高の喜びを存分に与えてやれるのに…なんて、思っちまったんだ。
本当に、馬鹿ばかしいな…自分で呆れる。」
「それは、佳代さんに、私が似てるから?」
「…たぶんな。」
「あの日のことは、誰にも話してない。あれで、長門さんの気持ちに整理が着いたのならそれでいいよ。私も心の中に、大事にしまっとく。
でも、それとこれを混同するのはやめて。
私は、秋人が大好きなの。そんな彼に望まれて、時には、私が望んで、そうなったのよ。
長門さんが思う最高の喜びは、きっと、私の思うものと違うわ。
私は、私なりの最高の喜びを秋人にもらったと思ってる。今、すごく幸せなの。これで、いいのよ。」
長門さんは、少し驚いた顔をしてから、にっこり笑った。
「晴香ちゃんは、ものすごく大人になったな。…年寄りの出る幕は、なさそうだ。幸せになれよ、今よりもっともっとな。」
ゴツゴツした大きな手が、そっと頭に乗せられて、いい子いい子された。
「すいません、中座しちゃって…。」
リズム軽な足音が、階段をおりてきた。その時、頭の上に、まだ長門さんの手が乗せられていて、いい子いい子してる途中だった。
「えっと…何かな、その状況は?」
「これか?…晴香ちゃんが、あまりにも優等生な返答をしてくれたんでな。思わず、ご褒美に頭を撫でてたんだよ。」
「むう…私は、幼稚園児じゃあないですよ。」
「そうだな。お母さんになるのにな。」
長門さんは、さっきの私への言葉はなかったかのように、にこやかに答えていた。
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