カレンダー

2/3
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
「安治、あれは何?」 白髪、白面の美青年タナトスは、肩にかかる髪を揺らしながら向かいの教育係に尋ねた。 問われた同年代の青年は、同じ方を見て、少しばかり面倒くさそうに、やはり首を傾げた。 「あれって何よ」 「あれ。カレンダー」 「……カレンダーって、知ってんじゃん」 安治はあきれた。カレンダーを知らないのなら「あれはカレンダーだよ」と説明できるが、カレンダーを知ったうえで「何」と問われる。一体何を問われているのか。 「安治、カレンダーがあることが不思議じゃない」 タナトスは、語尾を上げずにそう言った。断定なのか、質問なのか、感想なのか。 言ってすぐに「言い間違えた」と訂正した。 「安治、カレンダーがあることが当たり前であることが、不思議じゃない」 「……言い直した意味がわからないし、何言ってるかわかんない」 「文法が正しくない?」 「そういうことじゃなくて……」 安治は反論を試みてやめた。文法の正しさを言い出すと、いつも言い争いになる。近頃では、温厚で冷静なタナトスを怒らせるのが一番うまい教育係というありがたくない評価までいただいてしまっている。もちろん、褒めてはいない。「あなたに期待はしていない」とのたまう上司に、たびたび呼び出されては叱られている。 「……何が不思議なんだよ」 頬杖をつきながら、しかたがないな、という風情で問いかける。 タナトスは反対に、どうして不思議でないのか、と不思議そうな表情をした。 「今日が何月何日か決まっている。――不思議じゃない?」 「別に。――誰かが決めたんだよ。決まってたほうが便利だから」 「便利。……でも、気持ち悪い」 「なんでよ。……いや、気持ち悪くてもさ、便利なほうがいいじゃん」
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!