第3章 再会

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土曜日の夕方、私はあのお店へと向かっていた。最寄りの駅で降り、駅前の横断歩道の信号で待つ。休日の横断歩道では、年配の夫婦や小さな子供を連れた家族も、手を繋いで待っていた。 青になって、一斉に歩き出す人混みに怖くなったのかもしれない。子供がお母さんに抱っこをせがんだ。優しそうな眼差しで、お母さんは子供を抱き上げ、おでことおでこを合わせる。とても微笑ましい光景だった。 抱っこをしたお母さんの3mほど後ろを歩けば、後ろ向きの子供と目が合う。私がニコリと笑えば、子供も嬉しそうに足をバタつかせた。 3回目にバタつかせたとき、片方の靴が脱げる。お母さんは気がつかないで前へ行ってしまう。 いけない、靴が!と思い、急いで靴に駆け寄り拾おうとしたとき、ビジネスバッグを持ったスーツの男性が拾い上げた。 手を伸ばした私と目が合う。 なんだか、その人がとても眩しい。 「靴、落とされましたか?」 「いえ、私ではなくあの子が。」 あの子を抱くお母さんとの距離がどんどん離れて行く。子供は彼をじっと見ていた。 「靴、持っていきます。」 その言葉はもう、彼には聞こえていないようで。 最早、私の数メートル先に彼は歩いていた。
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