召喚者にお願い。

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「初めまして。僕はサリュー=フィリス。召喚獣である君と契約したいんだ」  確か言葉は通じるはずだ。さっさと義務を終えてしまおうと、僕はことさら事務的な口調で自分の召喚獣に向き合った。  その瞬間、清涼な風が身体中を吹き抜ける。水晶が触れ合ったような、澄んだ音が辺りに響いた。  辺りを取り巻く十重二十重の虹色の帯。宝石のように煌めく光の渦の中に、彼は立っていた。目が合った瞬間、その存在に全身を絡め取られた自分を自覚する。こんな綺麗なもの、見たことがない。 「召喚獣?」  鈴を振るような声が唇から零れ落ちる。不思議そうな響きに、僕はようやく我に返った。 「あ、……あぁ、そうだ。この世界では力あるものは、異世界より召喚獣と呼ばれるものを喚び出すことができるんだ」  みっともなく狼狽えている自分に、相手が気づいてないのなら良いのだけれど。  さっさと契約をすませて還してしまおう。そんな考えなど、どこかへ行ってしまっていた。  二度と喚ばないなんてとんでもない。むしろ還したくない。ずっと自分の傍に縛り付けたい。この綺麗な生き物といつも一緒にいたい。そんな初めての想いに戸惑う。  僕は彼と契約しなかった。理由は簡単だ。彼は召喚獣。僕を守るのが役目。今は無力な彼だけど、契約すれば力を得て僕を護る守護霊獣になる。  得られる力は僕の能力に比例するはずだから、かなり強力なものとなるだろう。それは今ですら彼の美しさを見れば判る。  もっとも、判るのは僕のように力を視ることができる者だけだろうけど。  彼の能力を信じないわけじゃないけれど、僕を庇って彼が傷つくなんて耐えられない。それに契約すれば正式にお披露目しなければならず、外に出て人の目に触れる機会も増える。  彼を極力誰にも見せたくないし、今は僕にしか分からないけれど、契約して力が解放されたら他の人にも彼がどれほど美しく魅力的か分かってしまうだろう。  なにより契約して力を得た召喚獣は、普段は自分の世界にいて、危機に応じて喚び出されるのだ。契約をすませたら彼は自分の世界に戻ってしまう。
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