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9章
6月になり梅雨入りをした都心は毎日雨が降り続いていた。
さしていた傘に容赦なく雨が降り注ぐ。
ここは近所の住宅街のある十字路で、車の通りが多く接触事故が多発していた。
僕は学校帰りで赤信号が青色になるのを待っていた。
立っている歩道のガードレールの傍らに献花がしてあった。
今年の3月末に死亡事故があったそうだ。
『お兄ちゃん、一緒に遊ぼう?』
ふいに声を掛けられ振り向いた。その声は直接頭に響くような不思議な声だった。
後ろに血まみれの服を着て帽子をかぶった男の子がサッカーボールを持って待ち構えていた。
影がなく足元が薄くなっている。
ああ、この子はここで亡くなった子の幽霊なんだなあとぼんやり思った。
「…多分、一緒には遊べないけど話し相手にはなれると思う」
僕はそう言うと近くにある公園へと幽霊の少年を誘導した。
そこは先々月の夜に鬼退治が行われた公園だった。
紫陽花が雨を受け色鮮やかに染まっていた。
傘を閉じてトンネルのようになっている遊具に入ると少年も僕の後に続く。
彼と話をしようと思ったのは幽霊になっているという義母への罪滅ぼしでもあったかもしれない。
未だに金縛りには遭うが義母には遭遇していない。
「…君は、さっきの十字路で亡くなった男の子?」
『うん、車にぶつかって痛くて気を失ってたけど気づいたらあそこから動けなくなってた』
話を聞くとどうやら大怪我を負った記憶があるだけで死んだ事には気づいていないらしかった。
「そっか…独りでずっと居続けたんだね」
『おうちに帰っても誰もぼくに気付いてくれないんだ。あとね
おぶつだんにぼくの写真がかざってあって、ぼくどうしちゃったんだろうって思った』
どうやら少年は自分の『死』に気付いていないようだった。
「ねえ、このままあの十字路に居続けたい?それとも、天国っていう行けたら幸せになれる場所にいきたい?」
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