「横浜クラウン・ホテル」殺人事件発覚

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   それから、二日が経過した。だが、みさをの行方は依然としてわからなかった。そのため、幽霊探しは一旦中断し、華子と麗治郎は朔太郎の命で、本牧三之谷から弁天通りの『壽屋』に戻っていた。 「どうして警察の力を借りないのですか、お祖父様?」  俊明が警察へと届けを出すよう朔太郎に頼んでも、当主は自身で探し出すと頑として譲らなかった。 「きっと今までの不満が募り、わしに反発して出ていったのであろう。無理やり本牧三之谷に帰らせたことを、みさをは根に持っているのかもしれん」  思いの外に冷静な朔太郎に、麗治郎も驚いているようだった。 「それでは、今までにもこんなことがあったのですか?」 「まさか、今回が初めてだよ、麗治郎君。しかし、今までなかった方が不思議なくらいだと思っておるわい」 「それでは、朔太郎殿はみさをさんが、自ら家を出たと見ているのですね?」 「あぁ、多分そうだろう。身を寄せるような友人はいないはずだが、みさをにはわずかばかりの金を持たせているからのぅ」 「そうでしたか。それなら人力車にも乗れますね。失礼ですが、わずかとは幾等ほどでしょうか?」 「そうだなぁ……確か、三十円、いや五十円そこらだったかのぉ。このくらいあれば、どこの宿屋でも泊まれるだろう」  単純に明治当時と現代の物価を比べると、一円は三千八百円相当とされている。だが、庶民にとっては二万円くらいの価値があったともいわれている。 「ご、五十円……そ、そんな大金を?」  素っ頓狂な声を上げて、華子が聞き返した。
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