国立超心理学研究所

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☆★☆  もしも予知能力があったなら、課長に江利香ちゃんを任せるなどという判断はしなかったはずだ。いや、予測すべきだった。22時を過ぎても2人は帰ってこなかった。携帯にも出ない。  しかし、鴫原さんに連絡しない訳にはいかない。腹をくくって電話をかけた。 「もしもし、市谷です。ええ、ええ、大丈夫です。何の問題もありません。長旅で疲れたんでしょう、もう寝ちゃいました。え? お母さんの事ですか? 大好きだって言ってました。……そんな事ありませんよ」  適当に嘘を交えながら話をする。鴫原さんは、江利香ちゃんを1人で送り出した事を随分と悔いていた。そもそも、研究所に連絡したこと自体が早まった行動だったと思っているようだ。江利香ちゃんを信じて、受け止めるのが親のあるべき姿だと。  僕の立場では何のお力にもなれませんが、とか何とか、ゴニョゴニョ言いながら対応する。我ながら、人の気持ちに寄り添うのが下手だ。    鴫原さんとの電話を切った後、考え込んでしまった。親と言えど1人の人間なのだから、そう完璧であるはずがない。悩んでいるだけ、鴫原さんはまともだ。  今更だが、江利香ちゃんを検査して研究を進めるのは、この親子にとって幸せなのだろうか? 確かに、江利香ちゃんのようなテレパスの研究が進めば、他人の気持ちに寄り添うような医療や、通信、情報技術などが発展するかもしれない。でもそれは、この親子の悲しみを取り除く方向とは違うのではないだろうか。 「おう、着いたぞ」  人が悩んでいるのを小馬鹿にするようなタイミングで、課長が帰ってきた。背中におぶった江利香ちゃんは、ぐっすり寝ている。 「こんな時間までどこ行ってたんですか!」  思わず声を荒げてしまう。江利香ちゃんをベッドにおろすと、肩を揉みながら課長がとんでもない事を言い出した。
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