君と僕のHOLIDAY LIFE

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「アンタはカッコ悪いくせにカッコつけだから」と、母は言った。  それは、梅雨がようやく終わり、本格的に夏が始まってまもなくあった日曜日、その昼近く、病院の病室でのことだった。  母は、ベッドの上で半身を起こし、僕はベッドの傍らにあった丸椅子に座っていた。そうやって取り留めのない話をしていたとき、母は急にそう言ってきたのだ。  僕はムッとして「何だよそれ」と言った。すると母は「そのまんまの意味よ」と。  言い返してやろうと思ったけれど、うまい言葉が思いつかない。それで僕が黙ると、会話はそこで途切れてしまった。  僕は所在なく視線を泳がせた。対して母は窓の方へと顔を向けた。そうした母の斜め後ろからの顔に、僕は何気なく、泳がせていた視線を止めた。  こけた頬、尖った顎、くっきりと筋が浮いた細い首。  普通体型だった母は、一キロや二キロくらいなら痩せたって見た目にはわからない。けれど今の母のその様子は、以前とははっきりと違う。明らかに痩せている。僕にはそれが堪らなくて、そっと目を伏せた。 「美結(みゆう)も、もう三年生よ」  僕は目を上げ、母を見た。しかし母の顔は相変わらず窓の方で、視線が合わない。それで、何とはなしに母が見ている方へ、すなわち窓へと視線を向けてみた。  窓の外すぐには、青葉をつけた枝を張った桜の姿があった。その向こうには、巨大な入道雲を浮かべる青空。  その空に太陽は見えない。雲に隠れているのではなく、窓から見える方向にないのだ。それなのになぜか目を細めてしまい、するとそのタイミングで母が言ってきた。 「ちゃんと話してあげれば、大抵のことは理解できる歳になったの。だからアンタは、何でもかんでも自分勝手にやらないで、美結に相談した方がいいと思うことは、相談してあげなさいよ」  美結とは、僕の娘だ。今年の春、小学校の三年生に進級した。母親はいない。母親は美結が三歳のとき、不慮の事故でこの世を去った。  僕にとっては妻であったその母親、紗耶香(さやか)は天涯孤独の身の上で、僕の方も、紗耶香と結婚したときには母しか身内がいなかった。そのため必然的に、紗耶香がいなくなると、母が紗耶香に代わって美結を育て、対して僕は、紗耶香がいた頃もいなくなったあとも変わらず、家族を食わせるため、毎日あくせく働き、おかげで美結とまともに顔を合わせられるのは、休みの日くらいなもので。
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