第一章

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 おれの前の席の女子が、ダンスが好きでとかどうでもいいことを言っている。同じことをおれが言ったらどうなるだろう? 消しゴムとかいろいろ飛んでくる想像図が浮かんで、三秒で考えるのをやめた。  「次、大坂君」  流れ作業のように、竹之下がおれを指名した。今まで十人くらい自己紹介してるはずだが、そういえばまったく聞いていなかった。  とりあえず立ち上がって、  「大坂強志です。強いこころざしと書いて、つよしです」  と言って、次の言葉がもう浮かばない。  「おいおい、早くしろよ」  と言ったのは一年生のときも同じクラスだった中山広樹だ。  「ほんとダメなやつだよな」  まだ言っている。  そっちの方を見ないで、おれは続けた。  「名前は強いこころざしだけど、そんなものは何も持ってないし、おれは見てのとおりのダメ人間です。でも、おれはダメ人間であることに誇りを持ってます」  言うだけ言ってさっさと座った。  どこかから、おーっという驚きの声が上がった。おれは振り返りもしなかった。顔を上げると、キョトンとした竹之下と目が合った。  何事もなかったように、自己紹介は続いていった。  誰の自己紹介も聞かないまま、五時間目が終わり、クラス役員決めの六時間目が始まった。竹之下が黒板に役員名をどんどん書いていく。  「希望する役員名の下に自分の名前を書いていってください」  竹之下がそう言うと、わらわらとみんな立ち上がり、黒板の前にむらがった。希望する役員なんてないけどね、なんて思ってるのはおれだけらしい。  十分もしないうちに、黒板前にいるのは竹之下だけになった。  おれはさっと立ち上がり、今回の残りくじは何かなと思いながら、黒板の前に立った。あれっと思った。どの役員も必要な人数が集まっている。もう一度見直して、一番右に書いてある役員だけ名前が書いてないことに気づいた。  あせらせるなよ、新しいいじめかと一瞬思ったじゃんか。ほっとして、その下に小さく〈大坂〉と書き入れた。  その瞬間、  「全役員決定!」  と嬉しそうに竹之下が言った。  「特に大坂君、たいへんだけどよろしく」  おれは自分の名前の上に書いてある役員名を見た。〈委員長〉と書いてあった。
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