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#3[神様でもなければ不可能な話]
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「ちょっと待て。既に他の捜査員が彼らの家族や近所の人、同級生にも聞き込みは行ったが、宗教団体に加入していたという様な話は一切上がらなかったぞ」
「中野さん、僕は一言も〝宗教団体〟とは言ってませんよ?もし本当にそういう類の団体が関係しているのなら、この事件は少し規模が小さ過ぎます」
「確かにな…。でも、だとしたら一体誰が」
中野さんは、段々と増えていく難問に苛立ちを隠せない様子だ。
「実は少し前に、知人の心理士から聞いたことがあるんです。〝ピエロ〟という、一言囁くだけで対象を自由自在に操れる人がいると」
「そんなものは、ただの噂にしか過ぎん。神様でもなければ不可能な話だ」
更にイライラし始める中野さんから、僕は少し距離を置いて話を続けた。
「僕もそう思ってましたよ。今回の事件が起きるまでは…」
「もしも〝ピエロ〟が実在するとしたら、時刻や場所も操れる筈です」
「確かに、一区から三区の間で同時刻に起きたという点に関しては、一番辻褄が合う答えだが…」
「もしそれが出来るとして、こんな残酷な事件を起こした動機は何なんだ」
「それはまだ分かりません…」
「ただ…。これは僕の単なる勘ですが、何か凄く嫌な予感がするんですよ」
俯きながら、地面に向けて小さく呟いた。
すると突然、中野さんは僕に詰め寄り、顔を覗き込んできた。
「…シロ」
「…は、はい」
「お前、そんな深刻な顔出来るんだな」
「 えっ」
僕は、何故か嬉しそうな顔をしている中野さんと共に、取調室を後にした。
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