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「調子はどう?検査は異常なし、ついでに疲労回復ミストを入れたんだけど」
「はい身体は楽です、精神的にはブルーですけど」
鏡があったのでゆっくりと顔を見たが、目も普通だし夢だと錯覚する位だ。
「今日は帰ってゆっくりして?次の勤務は三日後だし、美味しい物でも食べたらいいよ」
通路に社長の姿はなく、一人で家路につくが何となく足取りは重い。
玄関の出迎えも誰も来ず、リビングでドラム缶が一人で時代劇を見ていた。
「おかえり~、寒いから動くのおっくうだね」
「ただいま…瑠里は?」
「部屋でゲームしてるよ、昨日買い物に行った時に新しいの購入してさ、ご飯以外部屋から出て来ない」
『自分だけ新作ゲーム楽しんどんのか!』
イラッとしたので妹の部屋に行き、ドアを開けたがVRはつけておらず普通にプレイしていた。
「やっと街から脱出…やっぱ長いねこのゲーム」
隣に座ってるイナリも画面に食いついているが、着てる服が新しい物に変わっている。
「イナリの服も新調したの?」
「やっぱ私だけ買うと不平が出るからね、皆公平に欲しい物買った」
「はぁ?私が仕事してる間に自分達だけショッピングってズルイ~!」
心配するどころか、皆で楽しんでる冷たい家族に怒りが込み上げる。
「般若顔出さなくても姉さんにもお土産あるよ」
「瑠里ぃ~!」
イナリをギュッと抱きしめ、前足で顔を押さえられたが構わずハグで喜びを表した。
ショッパーを見た時点でウキウキしていたが、期待通り欲しかったショルダーバッグ。
「これ欲しかったんだぁ」
「だよね、いつも店の前通る時にチラ見してたから。そんな高くないし買えば良かったのに」
職場の往復で出かける事もないし、何となく勿体ない気がして手が出なかった品だ。
気が利く彼並みの妹にさすがだと感心してしまう。
「なんか色々あったけど、ご褒美のおかげでチャラに出来そうな気がする」
「それでこそ貧乏一家だよ、私達のいいとこでもあり、悪いとこでもある」
ゲームをセーブしたのを見て、即座に『聞いてモード』に入りたかったが、念の為コンビニにおやつを買いに行くと外に出た。
駐車場まで降り、車の中に入ると息つく間もなく話始めた。
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