#4 二度裏切られる男

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恋人未満になってからというもの、浅野さんのスキンシップの多さには驚かされる。もちろんそれはプライベートで二人きりの時だけだ。 こんな浅野さんは絶対に誰も知らない。会社の人はもちろん、優磨くんだって甘える浅野さんは想像できないだろう。 浅野さんに抱き締められると落ち着く。この時間が永遠に続けばいいと願う。 「足立さん」 「はい」 「もう一回言って……」 それが何の言葉かは言われなくても察している。 「好きです。浅野さんだけが大好きです」 何度も何度も口に出してきた言葉を今夜も欲しがる浅野さんに、私は心を込めて告げる。 安心した顔を見せる浅野さんは「別れるの名残惜しい」と呟く。 「来週も会えますから」 「仕事落ち着いたら二人でどこかに行こうか」 「いいですね! 映画に行きますか? それともお買い物?」 「そういうんじゃなくて……遠くに」 「遠く?」 「旅行とかどう?」 目を見開いた。 浅野さんから旅行という言葉が出ることが嬉しい。 「日帰りですか?」 「泊りで……」 照れたように目を逸らすから私は思わず口元が緩む。 「嬉しいです。すごく……」 私も照れて浅野さんの肩に顔をうずめる。 泊りの旅行をするということは、浅野さんと一晩中一緒ということだ。私からのお誘いじゃないことが堪らなく幸せだ。私と関係を進めようと思ってくれたということだから。 目が潤んでいる私を見て浅野さんも微笑む。 「楽しみだね」 「はい」 「お休み」 「お休みなさい」 別れのキスを交わすため顔を上げた。それが今日一日が終わる挨拶。 唇が触れようとしたとき、今度は私のスマートフォンが鳴った。 「…………」 「すみません……」
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