愛の花

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その奇妙な店は、私の知らない通りにあった。 駅前の飲み屋街で酔って、知らない横丁をふらふらしてい時、たまたま発見した花屋だ。 その日は、彼である京介と喧嘩した日だった。 駅で別れて、そのまま帰るのも腹が立つので、一人飲み歩いていたのだ。 その辺りは薄暗く、電柱には忘れられた埃まみれのプラスチック花飾りがあった。 かつての商店街が、今はしもた屋の連なる裏寂しい地域に変わっている。 酔った私の目に飛び込んできたのは、深夜の闇に光る一軒の店だった。 虫の習性よろしく光に吸い寄せられた私は、通りから背伸びするように、店内を観察していた。 屋号に「naniwa's FLOWER」とあるから、花屋なことは、間違いないだろうが、どう見ても切り花の類いが一切無く、あるのは、棚に並べられたたくさんの鉢植えだけだった。 その鉢植えたちは、隙間なくびっしりと並べられていて、全て違う種類で、大きさもまちまちだった。 私には、それがディスプレイというよりは、大きな標本のように見えて、とにかく薄気味が悪かった。 レジカウンターはあるが、葬儀屋より静寂で、いちげんさんお断りの雰囲気すら醸し出している。 そして並べられた全ての鉢植えの裏に、名刺くらいのプレートが置かれてある。 前に置くならまだ分かるが、裏に置くとはどういったことなんだろう。
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