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風呂から出て部屋に上がると、薫はデスクの横に飾られた吊り下げる形のアンティークフォトフレームの中の写真を見ていた。細やかな彫りの入った薄い金色のフレームが制服姿のふたりを囲んでいる。
「部屋に写真飾るとか、恥ずかしい奴…」
ぼそりと呟く。恥ずかしいと言いながら、どちらかと言うとその言葉の方に気恥ずかしさが込められていた。
その横には同じフレームに薫の写真が入れられている。初めて僕が撮った薫の写真。
ピントが少し甘いせいで、意図せずどこかふんわりと温かさのあるノスタルジックな雰囲気になっている。柔らかく取り巻く空気と光が切り取られ、その中から薫はこちらを見ている。
「どちらもすごく大切な写真なんです、僕にとって。この写真を見て、ひとりあなたのこと想うんです。何考えてるかは想像するの簡単でしょう?」
その言葉で感情のまま薫が目元をほんのりと赤らめる。いつも隙なく振舞うくせに、また意外な反応を見せられ気持ちが一気に煽られた。
薫をデスクに半分座らせるように両手をついて捕らえ身体を寄せると、ボディーソープの香りが舞った。いつもと違う、薫の匂い。色気とともに香り立つようで、自分が使っているものと同じとは思えない。
押されるように後ろに仰け反らせた身体を抱き留めてつかまえ、無防備になった喉元を唇で狙う。
唇で包んだ膨らみがこくんと緊張をもって動いたけれど、逃げたりしない。喉をいっそう反らせ警戒なく薄い皮膚が目の前に晒されて、ひどく動揺してしまう。
そこからシャープな顎のラインまで舌を這わせると、薫の口からため息とも抑えた声とも覚束ない微妙な音色が漏れ、それを聞いた途端冷静さを保つ自信がなくなった。
第一、こんな行為をしながら冷静でいようというところからして夢を見ている。気持ちは迸るように急いて、優しくできるのか今から不安になる。
「…純央」
ほとんど隙間のない距離を埋めるように響いた自分の名前。好きな人に呼ばれるだけで、その短い音はこれほど切なく伝わる。
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