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小さく笑った薫を残して立ち上がると、引き留めるように手を取られた。
「好きだよ、純央」
「僕も薫さんが好きですよ。きっとあなたが思うよりずっと」
「俺だって同じくらい想ってるよ」
僕の手を掴む絆創膏のある指の背に口づける。長い指を包み返すと、きゅっとまた握り返された。言葉はなくても、それだけで濾過されて残った結晶のような想いが伝わる。
そして想いは毎日深くなって、心を占めていく。それは互いに?
そうだと嬉しい。
「そうだ、僕が片付けてる間に、先にシャワー使ってください。今日は泊まっていってくれるんでしょう?」
また表情に緊張を見せるから、さらりと流れる髪にもいっぱいのキスを降らせる。
「いつも薫さんには余裕があって、僕ばかり想いすぎてるんだと思ってた」
あなたはいつも僕を優しく包みこんでくれた。明るい方に僕の手を引いてくれた。苛立ちひとつ見せず僕の心が動くのを待ってくれた。
「心配しないで。今度は僕の番だから」
「泣き虫の純央に、言われたくない」
歯切れ悪く、聞き取りにくいほど小さな声は、いつもの薫らしくない。それでも薫の一言、一言は、蝋燭の炎を揺らす風のように胸を震わせる。
これまで何度も距離を近づけるチャンスはあったはずなのに、クリスマスという日に外堀が埋められるほどこの時を待ち過ぎた。それが妙な緊張感を作っている。
伏し目がちに視線を落とす薫には異様な色気が溢れていた。
拒絶しながら、どこか誘っている。湿り気を帯びて揺れる視線が、少しぎこちない仕草が、独占欲を募らせるしっとりとした香りが。
繋いだ手をいつまでも離せないでいた。ゆっくりと息を吸い込み、距離を取る。
「タオル取ってきますね」
努めてなんでもないように、薫を残し階段を登った。暖かな温もりを残してきたような気持ちになった。それはやはり僕を優しく待ってくれているような。
なんだか苦しくなって、手に取った柔らかいタオルに顔を埋めその場にしゃがみこんだ。
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