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佐古田は、黙ってうつむいていたが、青白い顔をきっと上げて二ノ宮先生をにらんだ。
よく見ると、握りしめたこぶしが、身体の脇で震えている。
その尋常でない様子に、二ノ宮先生の隣であっけに取られて見ていた新沼先生の喉が、「ごっくん」と動いた。小南が、戸口に向かって一歩後ずさる。
瑤子の心臓が、どきんと跳ねた。
──もしかしてこれは、やばい?
佐古田の横恋慕だか何だか知らないが、よもや、乱闘に発展──。
──それは、まずい。
瑤子は、学年主任としての自分の立場を思い出した。
職員室で乱闘だなんて、とんでもない。何とかして収めなければ。
「ちょっと──」
椅子から腰を浮かし、二人の会話に割って入ろうとした時、佐古田がうめくように言った。
「どうやって、つかまえたんですか──?」
瑤子も含めて、周囲にいる全員が動きを止めた。二ノ宮先生の戸惑い切った声が響いた。
「──はい?」
佐古田が、ばっと顔を上げる。その目が血走っていて、かなり怖い。
「見た目ですか? 顔ですか、身長ですか? 全部ですか? やっぱり、二ノ宮先生みたいだとモテるんですか?」
「いや、別にモテては──」
戸惑う二ノ宮先生に、佐古田がぐいぐいと迫っていく。
「モテてない? 嘘だ、モテてるじゃないですか! 生徒にも彼女にも。何ですか、あの彼女。どうやってつかまえたんですか。見た目じゃないなら、何ですか。テクニックですか」
迫力に押されて、二ノ宮先生が椅子ごと後ずさっていく。
「いや、あの、テクニックって、何──」
「僕が知りたいですよ。何かあるなら教えてくださいよぅ!」
後ろの壁に、どん、と背もたれが当たり、二ノ宮先生の椅子がとまった。
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