目覚め

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「コンビニ……のじゃダメだ。近所の中華料理店……も違う!あそこは五目焼きそばが美味しいのであって、担々麺ではない!」  記憶に残る味でもないのに、なぜ担々麺なのか、自分でも理由が不明だった。  私にとって、食べ物にかんして十分以上悩むなど青天の霹靂、北から台風が南下するほどあり得ない話なのだ。  だが現実は、だらしのないパジャマに、財布を持って部屋をグルグルと回っている。自分で作るにはハードルが高く、材料もない。  冷蔵庫の中身を見て、ガックリと項垂れ、人生で初めて 「オーマイガッ」  と呟いた夜をすごした。  翌日、私は初めて会社を欠勤した。  いままで真面目に生きてきたのだ。これくらい許して欲しい。  午前七時に、飛び起きるように目を覚まし、パソコンで理想とする担々麺を検索し吟味に吟味を重ねて、店を選定した。  限定三十杯、八百円という破格の安さを誇るレア担々麺である。  大変に人気のある店で、開店の十一時半には、もう長蛇の列とあり、一時間前には並ぼうと、身支度を整え、化粧をし、気合を入れてヒールを履いた。  下着も、一番高いものをつけている。世の中に『担々麺のためだけに、気合を入れる三十三歳』もそうはいないだろう。
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