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午前九時半に家を出て、駅まで二十分闊歩し、切符を買い、普段足を踏み入れない街までやってきた。
サラリーマンや、OLの女の子たちを尻目に、私は店へ背筋をただし歩いていく。店に到着したのは十時十五分だった。
うちっぱなしのコンクリートにある店は小さな看板ひとつで、見落としそうな店構えだった。さすがに、まだ列はできておらず、店名を何度も確認し、店先の前でじっと待ち続けていた。
十一時をすぎてくると、続々と人が並び、列ができてきた。その先頭にいることが、否が応でも、期待を盛り上げていく。
そして、店が開店を告げ、自動ドアが開かれた。
一番奥のカウンター席に陣取り、おしぼりが出されると共に
「担々麺セットをお願いします」といった。
気合で腹から出る声は、自分の声だと思えないほど朗々と響き、
「担々麺セット一丁」と厨房にオーダーが入った。
同じ声が次々と響き、目的が担々麺であると明確に分かる。
私は、それを制し、いま王手に手をかけたのだ。
頬が赤くなり、指先は落ち着かないまま、おしぼりを握りしめている。
目の前で、大きな中華鍋が材料を入れて舞い、後ろには、四人前の麺が茹でられる
大なべがあり、ほぐされた麺が投入されていく。
次第に、店内は四川料理の香りに包まれ、私は高揚感に酔いしれていた。
「お待たせしました」
黒塗りの盆に担々麺が入った丼が置かれた。
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