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そんな駿の目に宿った炎が、水に当てられたように消える。
「でも、約束は約束だから」
涙をパジャマの袖で拭き、くしゃくしゃの笑みを浮かべた。
「だから、僕の抜けたブラバンを、絶対に全国に導いてください」
「……わかった」
力強くうなずく守山に安心したように、駿は背中をベッドに委ねた。そんな二人のやりとりを聞いている人間がいた。
「駿……」
「あの子があれほどまでに泣いたのを、初めてみたね。思えば今までにあれくらいの号泣を何度も経験していておかしくないのに、これが初めてだ」
胸に手を添えて沈痛な表情を浮かべる母親に、目を細めてなんとかできまいかと思索に耽る父親がいた。
ドアの外の人の気配に気づいた守山が、個室を出て見渡したときには、駿の両親の姿はなかった。
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