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「こういうのって族が成人式に着るんじゃないの?」
「白紋付は結婚式に使用する方増えてますよ。正式には黒紋付ですが白も結構キテると思います」
「そう?」
雷門の家紋は『亀甲並び矢』だ。羽織にも白地に紺の染で入れられている。
これが組の代紋としていたるところに掲げてある。舎弟たちの襟にも社章ならぬ代紋がつけられているのだ。
「アンタたち堅気には、俺たちの世界は時代錯誤の妙ちくりんだと思うだろうな」
「古き日本の伝統を重んじているんだと思いますよ。伝統文化を継承する方々と似ていますよ」
「一種の伝統継承か」
妙に心に落ちる気がした。悪事を生業とするのも昔と変わらぬ継承なのかもしれない。
「アンタの片思いの相手と嫁入りする俺が憎いか?」
「いいえ、早く片恋の残骸を片付けなければと思っていたところですから・・・・時期が来たと運命が告げているんだと思います」
「結構感傷的だな」
「このお仕事の後、感傷に浸りたいと思います」
「きっぱり諦めてくれよ。あの人は俺のものだ」
「ええ、諦めます」
「貴方は果報者ですよ。あんな素敵な方を伴侶となさるのだから」
「ああ、あの人に拾われたことを幸運と思ってる」
広げられた羽織に袖を通すと背筋が伸びる気がする。 これから雷門組の若頭として、あの人の伴侶としてこの道の真ん中を突き進まなくちゃならない。
「素敵ですね。貴方はあの方にふさわしいですよ」
「ありがとな」
肩で風を切って控室を後にする。もう後ろには戻れない。前しか見えない。
後ろに控えていた洋次が大友がホテルに到着したことを告げる。
「やっぱこっちに直接来たか。滝田先生呼んで治療してもらって」
「はい、手配いたします」
「恭介は組長のところに戻ったか」
「はい」
「俺たちを狙ったのは何処のどいつだ?」
「自分の組で手配できなかったんでしょうな。外国の傭兵を雇ったようです」
「その傭兵探しは誰がやってる?」
「会長のところの厳汰が追ってます」
「会長が動いたか。俺はいい囮にされたのか」
「若の移動ルートが漏れてましたね。内部に裏切り者がいるのか」
「さてね。仕留められなかったけど」
「会場は主戦場です。心して参りましょう」
「おう」
洋次の声掛けは自分の緊張を少し和らげた。息が詰まるような気がしていたからだ。
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