菊の杯ー或る男の話ー

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我ながら下手な言訳だったと思うよ。 俺に話しかけてきた魚顔は胡散臭そうな顔をした。 そこにすでに酔っ払ってる小鬼が絡んできた。 不粋なことを言いなよ。酒の味が台無しにならぁ。 魚顔は鼻を鳴らして去っていった。難は逃れた。それを見送った小鬼は俺を御座に座らせ何を言う間もなく杯を渡され酒を注がれた。 朱塗りの杯には菊の花びらが浮かんでいた。 俺はそこで気付いた。 今夜は九月の九日。 この宴は重陽の菊の宴だったんだ。 妖怪もこんな風流を持ち合わせていたとはね。 俺はなんだか嬉しくなって、奴らが知己のような気がしてきて、恐れすら忘れて、注がれた酒を一気に干した。 その美味たるや。 馥郁たる香りが喉を通じて腑を熱くした。 あんな芳醇な酒は呑んだことがない。 小鬼は俺の呑みっぷりに気を良くしたのか、次々に俺に酒を注いだ。 俺も小鬼に酌をした。 あれよと周りに妖怪が増え誰彼構わず酒を酌み交わした。
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