第5章

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「心当たりは…なくもないが…」  ジャコモ・スカルラッティのヴァイオリニストとしての人生が、こんな形で終わってしまうとは…。  唇を震わせながら、エリックはどうにか言葉を返した。  確かにこうなった以上、彼がパリに留まっても生きて行く術はないだろう。エリックは、彼の財産を競売にかけるために力を貸すと約束した。   以前、知り合いの作曲家が賭博にのめり込んで多額の借金を抱えて財産を差し押さえられ、競売にかけられたことがあった。だが、仲介した男がこの手の商売の人間には珍しく、負債者が有利になるよう取りはからってくれたと聞いたので、その男に声をかけてみることにした。
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