魂の距離 身体の距離

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眠った美夜をベッドに運び、亮介は二杯目のウィスキーを口にしていた。 携帯が再び震える。 「あ……すみませんお待たせして。申し訳ないですが、キャンセルします。……はい。すみません」 タクシーを帰し、そして続けて、亮介は電話帳の登録ボタンを押した。 「あ、俺。樹里もう寝た? ん、そっか。 ……今日、美夜んとこ泊まる。アイツ今日、なんかおかしいからさ」 『わざわざ電話しなくてもいいのに。私今日そっちにいないんだし』 「はは、まあそうだけどさ、愛妻家の俺としては、後で勘ぐられたくないしな」 『ちょっと……いいや、やっぱかなり妬けるなぁ! ホントは悔しい!! 美夜さんがパパにとって特別なの、何となくわかるんだもん。 でも美夜さん好きだし。 パパが私の旦那さまでいてくれるから、今日は許す! ……話、聞いてあげてね』 「ばーか、それ以外何があんだよ」 朱里の、この直球勝負の素直さに、これまで俺はどれだけ驚き、救われ、癒されてきただろう。 俺が朱里と出会ったように、美夜、お前もそのうちきっと、誰かと出会う。 それを切に願いながら、でも滅多な野郎にお前を持って行かれたくない、とも思ってる。 ズルいな、俺は。 お前のものにはなってやれないくせに。 朱里に、少しだけ嘘をついた自分に、亮介はふと気づいた。 美夜はもう眠っている。 起きていたとしても、美夜が自分の思いを語るはずもない。 帰ろうと思えば帰れる。 でも俺は、帰らないでいる。 亮介は、美夜の眠るベッドの縁に凭れ、天井を仰ぎながら自嘲した。 今日だけ、もっと近くにいたい。 そう思ったのは、……俺も同じかもしれないな。 明日の朝になったら。 俺の姿に気づき、青くなって目を白黒させる美夜を、思う存分からかって。 そしてまた、いつもの俺たちに戻る。 だから、今日だけは。 お前のそばで、一人の男として眠っていいか? 耳許で聞こえる、美夜の寝息。 かすかに腕に残る、おそらくは最初で最後の、そのぬくもり。 「おやすみ」 わずかに熱を持った自分の胸に蓋をするように、亮介はゆっくりと瞼を閉じた。 Fin.
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