第1章

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前の族長にその地位を譲られる1年程前、俺はその地下深くまで掘られているらしいトンネルの底まで、工事関係の市民や警備している兵士の目を盗み、数日かけて降りてみた事がある。 トンネルの底には、巨大な地下空間が造られていた。 その巨大さは、煌々とライトで照らされている天井が見えない程の高さで、広さも四方に数十キロ以上はあり、その広々とした空間に、これまた巨大な建物が幾つも建造されていて、その巨大な建物の中に、沢山のトラックが吸い込まれて行く。 その後は族長の地位を譲られた事もあり、軽率な行動は自粛した。 寧ろ族長の仕事をこなすと共に、偶々ゴミ捨て場に捨てられていた辞書を拾い、その辞書を使って新聞や雑誌の中の読めない字を探したりして、新しい知識を得る事と、俺の妻、前の族長の孫娘や俺達の間に生まれた子供達に、字の読み方と書き方を教える事に時間を費やす。 前の族長に地位を譲られてから5年程経った今、ゴミ捨て場に捨てられる生ゴミの量が少なくなり、下水道から見上げる道路を歩く人の姿も、以前より少なくなったように思う。 友好的な他の一族に尋ねても、同じように、捨てられる生ゴミの量が減っているとの答えが返って来た。 おかしい? 地上で何か起こっているのだろうか? 捨てられる生ゴミの量が、日が経つと共にドンドン少なくなって行く。 このままでは一族は飢え、死を待つばかりになる。 俺はある日、腹心の部下である義弟を伴って、地上の様子を窺いに、下水道から地上に足を踏み出した。
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