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俺は未だに、真哉がこの世界から消えてしまった現実を、受け入れるコトができない。
甘いバリトンが心地よい真哉の声。俺の名を呼ぶ時だけ、少し掠れたようになってさ、そんな分かりやすい真哉の声も心も、俺は大好きだったんだ。
リビングに入ると、いつまでそうやってたのかは知らないが、紙切れを手に和哉がカウンターのそばでつっ立っていた。心なしか蒼然とした和哉を胡乱に思い、やつにその訳を訊いてみた。
「和哉……どうしたんだ?」
「深雪、驚くなよ。今頃ンなってさ、兄貴から手紙が届いた」
「……え?」
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差出人は真哉が世話になった、ホストファミリーのla mere(母親)からだ。
彼女の手紙にはこう書かれていた。
『真哉が読んでいた小説に、恋人に宛てた手紙が挟んであったのを見つけました』と。
同封されていた手紙は、確かに真哉の筆跡で間違いなかった。
「……おまえに宛てられた手紙だ」
「……」
何が書かれているのか、それを読む勇気が俺にはなかった。無言のまま首を横に振り、和哉が手にする真哉の手紙を模糊(もこ)した。
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