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「いただきます。」
律儀にも彼女は手を合わせてお辞儀をした。俺にはそれがまるで最後の晩餐を楽しもうとしている人間に見えてしまって仕方がなかった。
不謹慎な自分の想像をかなぐり捨てるように自身の頭を振っていると、彼女は箸でラーメンを持ち上げてそれをまじまじと見つめていた。そして、ゆっくりとそれを口に近づけていく。
ちゅるると可愛らしい音を立てて、ラーメンをすする。自分のラーメンが伸びてしまうということも忘れて俺は彼女が食す姿に見入ってしまっていた。
2口、3口と口にする。
スープを一口飲む。
ぷはっとこれまた可愛らしい息を彼女が漏らしたところで、俺は意を決して声をかけた。
「どうだ?」
彼女は俺とは目を合わせずにつぶやいた。
「別に?そんなに美味しいわけじゃないかな。ていうか普通。」
その言葉に、俺は苦笑いを浮かべ「そうか。」と答えることしかできなかった。
「でも、なんでだろ?」
さらにそうつぶやいた彼女の方に視線をやる。その先にある光景に俺は目を見張った。
彼女のその大きな瞳からとめどなく溢れ出てきていたのは大粒の涙だった。
その涙は可愛らしい彼女の顔の原型をとどめないほどグシャグシャにしてしまっていた。しかし、そんな状態でも彼女はラーメンを食べるその手を止めることはなかった。
俺は彼女から視線を外し自分のカップラーメンの蓋を開けた。ずぞぞと豪快にラーメンをすする。やはり最高に美味かった。
「止まんないなぁこれ。あはは。」
隣から聞こえてくる震えた声を聞きながら、俺はひたすらにラーメンをすすり続けた。それはいつもの食べ慣れた化学調味料の味に少しだけ塩っぽさが加わったような味だった。
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