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意識が戻った時、彼女の視界に映ったのは。ナンカンの浅黒い顔だった。
「危なかったな。常時携行している救難ロープが役に立った。あんたの上半身にロープがうまい具合にかかった。防護スーツは焼けて使えないが、予備を監視所から調達するといい。」
「ここは? わたしはスーツを着ていないけど。空気も温度もいい具合。」
「おれの棲みかへようこそ。狭いけど、人間ひとりくらいは平気だ。」
ミルクティははまわりを見回した。明るい白い壁に囲まれた空虚な部屋だった。壁の奥から赤い管が伸びて、それが直接ナンカンの後頭部に接続されていることに気づいた。
「おれは、半分は人間ではないんだ。おれたちは、この星の永久開拓者。酸素と水を作り、穏やな環境を構築している。将来は、おれは植物になって、この惑星を緑でいっぱいにする。現在は光合成と配給タンパク質で生きているってわけさ。」
「それって!?」
ミルクティは絶句した。
ナンカンは優しく微笑んだ。
「いいんだ。おれが望んだ事だから。植物になれば人間よりも長く生きられるしな。そういうわけで、おれは、この星から出られない。ミルクティ、おれを探してくれてありがとう。」
「わたしはいつも助けられてばっかり。わたしは、わたしは・・」
「もういい。何も言うな。気持ちは分かる。少し、眠るといいよ。疲れがとれたら気分もすっきりする。おれも、きょうは仕事はしない。」
「そばにいてください。」
「いいとも。おやすみ。」
「おやすみなさい。」
* * *
許可された滞在時間は残り少なくなった。わずかな時間ではあったが、ミルクティは、ナンカンの業務の助手を務めた。
宇宙船出発のその日。
搭乗人員の照合を行っていたクルーは、欠員が出た事を知らされた。
ミス火星・ミルクティは残留開拓者申請を提出、受理されたのである。
百年後。
チョウカイⅡは緑豊かな温暖な惑星へと生まれ変った。
訪れる人々は、広大な緑の樹林地帯を見ることができる。
その中に 絡み合うように天空へ伸びる、ふたつのそして一つになって生い茂る樹があった。
ミルクティ色の花びらが、空へ高く、高く。
溢れる光を透過しながら、風に舞う。
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