序章

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 いやだ、いやだ。泣きじゃくりながら何度も何度も繰り返す華夜(かや)に、朝陽(あさひ)は優しく微笑んだ。 「大丈夫、もう大丈夫。だから後はまかせて」  その言葉が別れを意味しているとわかり、華夜はふるふると首を横へ振る。喉がつまり、声が出ない。限界まで疲弊した体ではもう立ち上がることさえ叶わない。左頬に負った傷から流れ落ちる血が、着物を赤く染めてゆく。 「ごめん…………私が…………ぜんぶ、私のせいで…………」  最後の力を振り絞り、朝陽の右腕をつかむ。ずたずたに引き裂かれた服、ぬるりとした血が華夜の手をつたい、落ちる。 「華夜のせいじゃないよ」  いったいどれほどの傷を負っているのか。なのに、朝陽はまるで辛そうなそぶりを見せず、柔らかな笑みを浮かべる。彼の、こんなにも優しい笑顔を見たことがなかった。 「でも、私が…………」  耐えきれなかった。  体内に吸収したものが多すぎて。限界まで達した体。じくじくと内側から蝕まれる感覚。せめて、海かどこか、人のいない所まで。しかし、持ちこたえることができず、街中ですべてを解放してしまった…………街に、強大な影を解き放ってしまった。
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