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シバとニャニャがユキの頭をくしゃくしゃと撫でる。
少しだけ鬱陶しそうにユキが鳴き、それを見て僕ら全員は笑っていた。
きっとユキは僕らに幸せを運んでくる。
だから僕がここに居て、ユキとこうして出会えた事にも意味がある。
奇跡という幻想の中でしか得られなかった想いが、確かにある。
「ね、ねえ」
ユキを抱えた彼女は夕陽よりも濃い頬の色を隠すことなく、僕に話しかけた。
「んっ?」
「ほ、ほんとに行っていいの? 陸くんの家」
「もちろん、どうしてダメなの?」
「え? あ、えっと……その、あ、あのね……男の子の家、あまり行き慣れてなくて」
僕は頷く。
「構わないよ。それに、ユキに会いに来るんでしょ? それとも、僕に?」
少し意地悪な事を言ってしまった。
想いが抑えられなくなりそうだった。口にしてもいいのかもしれないけれど、僕は、今がその時でないと思っている。
彼女はさらに頬の色を濃くし、抱えていたユキを落としそうになる程ばたついていた。
「もうっ……いじわる……でもっ」
彼女とユキは同時に顔をあげ、僕を見た。
「今の陸くん、すごく好きなかんじっ!」
少しだけぼやかしたその一言に、僕の胸でそれが鼓動を刻んだ、気がした。
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