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〇〇〇
わたしが彼の事を無意識に追いかけていると気づいたのは、夢の中で笑いかけてくれた誰かが消え去った、今朝方の事だった。
目覚めと共にわたしの頬には涙が流れ、それがとても暖かく感じる。
十一月中旬という事もあり、確かに朝方特有の冷気はパジャマの上からでも肌を突くというのに、頬一点だけはとても暖かい。
わたしは自分がおかしくなったのではと感じ、ごしごしと目元をパジャマの袖で擦ると、一本の睫毛が瞼の下に入り込み、さらに涙が流れた。
洗面所で必死にそれを救い上げ、あろうことか二本目のそれが瞼の裏に潜んでいた事を知った。なるほど、不可思議な涙はこれが原因だったのかと納得する。
そもそも夢を引きずり涙が流れるなど、どこか滑稽に感じてしまうのだ。
「海、朝ごはん出来てるわよ」
「待って、すぐ食べる!」
わたしはお母さんの呼びかけに応じ、手早く身支度を済ませリビングへと向かった。
味覚を刺激するお母さんの朝食は和食で、少し濃い味噌汁が寝起きの体に染みる。染みるけれど、わたしの心の片隅に生まれた小さな火種まで染み込む事はなかった。
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