*天才児

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「海、元気よね」 「なに、急に」 「ううん。嬉しくって」 「なにそれ、変なの」  お母さんとの意味のない会話もどこか右から左に抜けていく。  制服に着替えている時も、ローファーに足先を通した時も、いつからかお気に入りになったマフラーを巻いている時も、考えるのは、彼の事だった。  自宅を少しだけ早く後にする。  僅かな期待感を込めて、以前彼と再会した場所付近をうろうろと歩く。  どうしてなのだろうか。  どうしてこんな唐突に自分の気持ちを自覚してしまいそうになったのか。  わたしの通う高校は女子高で、それも進学校だ。  いい大学を目指すためだけに生徒が通う場所。もちろん色恋沙汰の話など聞かないし、特に親しい友人が居るわけではない。  それどころか、皆会話というものをしない。休み時間も参考書と向き合い、耳には常にイヤフォンをはめ、他者の存在を遮断している生徒ばかりなのだ。  いい大学に入れれば結果良しというスタンスがある事から、欠席も多めに見る傾向にある。期末試験の点数さえ基準点をクリアしていれば、出席日数は多めに見るらしい。
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