*天才児

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 高校二年生になった今、わたしはギリギリでそのラインを突破していた。  一年生の時も試験を受けた記憶だけは覚えているのだけれど、そういう生活をして来たせいか、あまりここ数年の主な記憶は脳に残っていない。きっと優秀な生徒になろうと切磋琢磨しすぎたせいだろう。  そんな時、再会したのが彼だった。  空っぽな私に、幻想的な、まるで夢の中の世界の様な景色を見せてくれたのが彼だった。  実際は彼が見せてくれているわけではないけれど、彼と共に居るようになって、わたしは以前の何倍も笑うようになった。そもそも誰かと会話した事自体、久方ぶりに感じた。  だから今日も、その偶然の一瞬を求め、通学時間よりも三十分ほど早くわたしは家を出た。  彼と再会した場所で、再び彼と会える事を願って。  実際は携帯で毎日の様にメールのやりとりもしているわけだけど、それでも、予定にない出会いというものは時にその想いを強くさせる。  これまでも何度かその偶然が重なったことで、わたしは彼を追いかけ始めたのだ。きっと、どこかで運命だと感じてしまったからなのかもしれない。 「あれ?」
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