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名をオプという。この土地の言葉で槍という意味だ。随分と物騒な名をつけられたものだが、それが父の意志であるならば、子であるオプは粛然と受け入れるのみ。もっともオプ自身、自分の名をことさら攻撃的だとは思ってなどなく、気に入ってもいる。さらに云うならば、将来を約束しあった女性であるノヤの愛らしい唇から聞く自分の名がなにより好きだ。
今日とて大漁とまでいかずとも、一家で腹を満たすほどには獲れた。
きっとやっていけるとオプは思っている。澄んだ青空に一点も雲がかかっていないように、自分の将来にも一点の翳りのないことを願っている。
砂浜はやがて粒の大きな砂利へと変わり、下草が青々と茂る場所へと出た。萱で作られた家々が円環に並ぶ夏の村。そこがオプの暮らす沖の一族の集落だ。
沖の一族。
自らをそういいならわしている。いつの頃からかは知らない、興味がない。少なくともオプが物心つく以前のことであろうし、自分の生まれる前のことなど二十年でも一万年でも同じだからだ。オプはひたすら前だけを見て生きている。生業である漁の腕を磨くのもそのためだ。
オプは沖を見た。意味はない、村に帰ってきたときの習慣といっていい。
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