第1章

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 昼過ぎの太陽は水面をいいだけ輝かせていた。湾の対岸に見える山々も実によく見える。しかしこういう日は魚はあまり獲れないものだ。だからオプは今日、磯で貝やら獲っていた。堅実なのだ。糞真面目とも揶揄される。  ふと目線を村に戻すと木陰に人影がある。  この時間あの位置。ならばあいつだとオプは口元をほころばせて肩の袋を負いなおした。膨らんだ上腕に汗が光っている。 「それは解熱の薬か?」  木陰に腰を下ろして一心に丸薬をねっていた男が、わずか驚いたように顔を上げた。声の主が誰か知れると安心したように笑って見せた。 「違うよ、痛み止めさ。奥歯の虫食いが酷くて」  名をカル。病弱な彼はあまり漁に出られず、日がな一日こうして細工物やら薬やらを作っている。漁の腕すなわち収量で男の価値を測るこの村で、そんなカルの立場は弱い。しかしオプは、自分とは体格も性格も正反対のカルと不思議と馬が合った。気弱ゆえ血気盛んな村の若衆にいじめられることの多いカルだったが、オプは決してそんなことはせず、虐げられる彼を常に助けた。そうすることが力強く生まれた自分の使命であると思っていた。なにもかもまっすぐな男なのだ。
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