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「綾斗。また会いに来ような、鈴音に。綾斗ならあの施設長、大歓迎さ」
「困ったな……」
「何で」
「毎日来たくなりそう」
「おうよ、毎日来りゃいいさ」
滝は可笑しくなって笑った。綾斗からそんな言葉を聞こうとは、数分前には考えられなかった。
「ここは不思議だね」
綾斗がゆっくり顔を上げ、何かに耳を澄ませる仕草をした。
「ん?」
「悲しい子供がいる場所だと思ったのに、外なんかよりずっと静かなんだ。どこよりも」
綾斗にとっての『静か』という言葉がどういう事か、今の滝には分かりすぎるほど分かる。
哀しい助けを呼ぶ心の声が、ここには無いのだ。
「外」も皆そうだったらと、綾斗は思うのだろう。
哀しいノイズをいくら受け取っても、救えずに胸をかき乱すことしかできない綾斗にとって、本当に静かな世界は、願っても手に入らない楽園なのかもしれない。
「滝さんも」
綾斗は鈴音を抱いたまま、滝を振り返った。
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