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腕の中に大切な赤ん坊を抱いているのに、あまりしつこく頭を撫ぜられて、抵抗のできない綾斗が次第に本気で怒りだす。
「ああ~もう、くしゃくしゃになる! いい加減にしろよ、オッサン!」
「オッサンってなんだ! “あんた”ならまだしもオッサンてなんだ。いや、そもそもあんたでもない。先生って呼べ! 滝先生って」
「やめろって! 鈴音が落ちるって!」
2人の言い合いが可笑しかったのか、綾斗の腕の中で赤ん坊は握った小さな手を振り、自分もいっしょになって可愛い声を奏でた。
「……」
滝も綾斗も、ふざけるのをやめ、咄嗟に耳を澄ました。
微かだが愛らしい、澄んだ鈴の音のような声に、綾斗が思わず満面の笑みを浮かべる。
ただそれだけのことが、滝には堪らなくうれしく思えた。
― fin ―
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