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始めは、脳の中程から伝わる微細な振動だった。
けれどもそれは潮が満ちるように時間とともに強さを増し、次第に脳ではなく心臓あたりに揺さぶりをかけ始める。
恨みでもなく、悲しみでもなく、ただ執拗に『その身に起こった不具合』を訴えてくる。
神田綾斗はベッドの中で丸くなり、掛け布団の中に頭まですっぽり潜り込んだ。
無駄なのは分かっていた。
聴覚が捉えるのではないその声は、物質など易々とすり抜け、綾斗の特異な感覚器官に到達する。
―――かなり近い。 駅か……。 くそっ……。
込み上げてくる苛立ちに任せて心の中で舌打ちをし、掛布団から顔を出す。
ベッドサイドの電波時計は深夜1時を過ぎたところだ。
ようやく少しだけ眠気が訪れかけていたところだったが、多分もう眠れない。
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