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「なによ。来てくれたっていいじゃない。車だったらすぐでしょう?」
追い打ちを掛けるように、隣の透子(とおこ)の部屋からヒステリックな声が漏れてきた。
唯一親しくしている男友達、菅沼に電話を掛けているのだろう。
この重厚な造りの屋敷に響くのだ。かなりの大声でわめき散らしているのに違いない。
透子がまるで下僕のように従わせている菅沼という院生は、綾斗の苦手な男だったので別段哀れには感じなかったが、今夜も透子は精神を乱し眠れないのだと思うと、そのことがまた一つ、綾斗を沈ませた。
頭の中で「声」が更に音量を増す。
言葉ではない、ただむき出しの生命の訴えだ。
―――いい加減にしてくれよ! 俺を呼ぶなよ。お前なんかどうせもう、生きてたって……。
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