夢の中へ

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スマホから何か声が聞こえるが、佐藤武の耳には届かない。 「園部か。佐藤が先に開けると思ったんだが。面倒だな」 高橋正治が戸口に現れた。 「まあいい。佐藤なら勝てる」 「……何やってんだ?お前」 「気付いたんだよ。犯人はお前か園部なんだから、どっちも殺せば安心して眠れるじゃあないかってね。だから呼んだ」 高橋正治が手斧を園部仁美から抜こうとする。 佐藤武が反応して飛びついた。 手斧の奪い合いになり、我に返ると高橋正治の喉は手斧で切り裂かれていた。 死体を見下ろし、佐藤武は呟いた。 「やっと眠れる」 そのまま倒れて眠りについた。 取調室で、あの刑事から取り調べを受けていた。 「お前が殺したんだな」 「違うんです。殺さなければ俺が殺されていたんです。正当防衛です」 「それだけじゃあない。今までの殺しも全部お前だ」 「違います!刑事さん、信じてるって言ってくれたじゃあないですか」 「私はそんな事を言った覚えはない」 ソイツはいつの間にか巨大剃刀を持っていた。 振り上げる剃刀に身体を反らし、椅子が倒れて目が覚めた。 「なんで……?なんでだ?」 今のは小屋の中じゃあなかった。それに刑事さんだった。 あの夢じゃあないのか? しかし今の夢にはあの夢と同じ現実味があった。 そして一瞬でも寝て少し自分を取り戻した佐藤武は、目の前の二つの死体を見て現実に打ちのめされた。 二人の遺体を小屋の中に隠し、近くの川で返り血を流した。 服を脱いで血の染みを落としていると、川上から大きな桃が流れて来た。 余りの事に呆気にとられていると、中から剃刀が突き出してくる。 急いで逃げ出し水に足を取られて転んで目を覚ました。 「……まだ終わってないのか」 俺達じゃあなかった。他の誰かでもなかった。 誰でもあって誰でもない、夢の中の住人なんだ。 高橋の考えは間違っていた。だが一つだけ正しい事を教えてくれた。 たった一つの真実。 殺されたくなければ殺せ!
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