夢の中へ

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裁判所の被告席に居た。 居並ぶ黒い服の真ん中の人が 「死刑」 と言うので見上げると、黒い服の中から巨大剃刀を取り出した。 飛び降りざまに目の前の机をぶった斬られ、逃げ出して後ろの柵を乗り越え落ちた所で目が覚めた。 三畳しかない鉄の扉の部屋に居た。 ドアの小窓の前を誰かが通ったので 「俺は死刑になったのですか?」と聞くと 「そうです」と答えた。 「いつ死刑にされるのですか?」と聞くと 「今です」と答えて巨大剃刀を取り出したのでドアから離れた。 鉄のドアは斬り裂かれ、落ちたドアが足を潰した痛みで目が覚めた。 鉄のドアは自分を閉じ込めたままだったが、足の指は潰れて血が噴き出していたので、助けを呼んだ。 三畳しかない部屋の中で考えた。 俺は現実で死刑にされる事になったのか?それとも夢なのか? あれだけ人を殺したんだ。死刑になるのは当然だろう。 夢に殺されない為に努力してきたのに、現実に殺される。 夢からずっと逃げて来たけれど、現実からは逃れ様がない。 このままでは俺は現実に殺される。 「いったいどうすればいいんだ」 頭を抱えた時、人の気配がした。 またアイツだ。 潰れた足を握って痛みを与えたが目が覚めなかった。 今は現実だった。 ドアが開いたので振り向いたら、巨大剃刀を持った誰かが立っていた。 足を握って痛みを与えたら目が覚めた。 ドアは閉まっていた。 今度は本当にドアが開いたのでまた足に痛みを与えたら、開けた誰かがそれを見て 「止めなさい」と駆け込んで押さえつけ、巨大剃刀を取り出した。 「うあああ!」と叫んで目を覚ました。 ドアは閉まっていた。 もう夢も現実も分からない。 どっちでもいい。 どちらも同じ。 俺は死ぬ。 何度も夢から逃れて来た。 しかし現実の死刑への時間は刻々と迫り、それから逃れる事は出来ない。 つまり、いつか俺は現実に確実に殺される。 現実から逃れる方法はないのか……。 ある日、佐藤武はふと気が付いた。 現実から逃れるたった一つの方法。 「何故もっと早く気が付かなかったんだ」 夢の中へ、夢の中へ逃げれば良いんだ。 三畳しかない部屋の中で、佐藤武は安らかなる眠りについた。 夢の中へ……夢の中へ……。 完
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