101号室  青田 穂積  『宮西杏來』

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「青田さん、これもコピー頼む。十部」  穂積が立ち上がるのを見計らうかのように、隣の大竹が声をかけてきた。 「急いでないから」  穂積が書類を受け取り、軽く頷いたのを見て、大竹はまたパソコンに向き合った。  今日は月末、三十日。処理しなければならない領収書と格闘している経理課の社員たちは誰も二人の会話に気づかない。  足早にコピー室へ行き、大竹から受け取った書類、上から三通目を開く。  そこには『地獄明けデートどう?』とA4用紙に走り書きが一行。  軽く息を吐き、心のなかで答える。 「デートって言っても食事してホテルへ行って……それだけでしょ? ずっと一緒にいてくれる訳じゃないのに……。急いで帰らなきゃいけない場所があるくせに…………」  それでも穂積の手が書き慣れた単語を白紙に綴る。 『OK! 楽しみにしてるね』  楽しさなんてとっくに無くなっているのに、そう書いてしまう自分が酷く醜く感じた。
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