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目を開けると、そこには金髪にピアスを両耳に三個ずつ付けた、あまりにも非道徳的な神父がいた。ツネ子は少々驚いたものの、彼の教壇の前には、「懺悔してください」と張り紙がある。そうか、此処は懺悔をする場なのか。ツネ子はすぐに事態を察すると、やがてその身をくねくねとしだした。
「いや、ね? 卑屈なこと言ったら嫌われるよね。嫌われるから言わないけど、やっぱ卑屈になりたい時ってあるしさ、卑屈をアピールしたい時ってあるじゃないですか? でもやっぱりなぁ、言ったら嫌われちゃうかなぁ。だけど……」
延々と続きそうな、卑屈談。神父はゆっくりと目をつぶり、身を震わしながら必死に耐えようとする。しかし、それも彼女の、「いや、ね?」が五回目に達したところで、ブツリと理性がぶち切れる。
「何でも良いから早く言えよ! かまってちゃんかよ!!」
「あ、やっぱり嫌われた。だから駄目だって私」
「ちーげーよっ! これ見えねーのかよ! 懺悔しろって書いてあんだろーがよ!!」
バンバンと教団を叩く神父。しかしツネ子は身のくねりを止めない。ちなみに、彼女はオネェでは無い、妖艶で雌豹のようなOL女性三十二歳だ。男は皆、振り返れば彼女に心を奪われると言う逸話があるとかないとか。
「でもさぁ、だって私、こんなことばっかり言ってきたから男の人に嫌われてきたんだよ? でも、本当は辛いし言いたいし……」
「嫌わない嫌わない! だから言え!!」
ツネ子は、「本当?」と顔を上げると、神父はコクコクと頷く。すると、ツネ子はニコリと微笑み礼を言う。
「じゃあ言うね。私、凄く嫌になっちゃうんだけど、好きになっちゃうんだ。金髪でピアスを付けた、非道徳的な人」
「え……」
神父は気まずそうに頭を掻き、目を逸らす。ツネ子が近づくと、くるりと背を向いた。
「やっぱり、嫌いだよね」
「いや、嫌いとかじゃねーけど」
「有難う。スッキリしたから帰るわね」
「え、いや、ちょ」
ツネ子はくるりと背を向けると、走り去り、教会の扉を開けて出て行ってしまった。
この教会を出てはいけない神父。彼女が走り去った後の扉を見つめながら、呆然とすることしか出来なかった。
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