第1章

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しかし甘い色の髪も鳶色の瞳も、形のいい薄い唇も。気づけば博雅とよく似ていて。 全体が醸し出す雰囲気は、薫の方が甘やかで儚いけれども。 「……晴明?」 自分達をまじまじと見つめる晴明に、博雅が困惑した声を出した。 「あ、いや……なんでもない」 自分でも無意識のうちに、博雅に似た姿を式神に与えてしまったらしいと悟って。晴明の唇に苦笑が浮かんだ。 「薫、俺にも酒を」 薫が立ち上がり晴明の脇に侍る。博雅はやっと息がつけるような気がした。 なぜか自分でも分からない。ただ、薫の存在が……自分の中に不安を呼び起こす。 盃を唇に運ぶ博雅の眉が、知らず寄せられた。 昇ってきた月を眺めながら、二人は無言で盃を干していた。 薫が動くたびに、小さな金の花が散る。 その耳元に花がついているのに気づいた晴明が、指を伸ばして掬い上げた。 頬に触れる晴明の手に、薫が切れ長の美しい目をうっそりと閉じる。 伏せた右の瞼にある小さな黒子までが博雅と同じ位置にあるのに気づき、晴明がどきりとした。 長い睫が目元に落す翳、軽く閉じられた唇の線の柔らかさ。 薫の甘やかな風情が……博雅が情を交わした後はこんな風なのかと、晴明にふと想像させて。 再び開かれたその瞳に映る自分の顔を見つめてしまった。 不意に博雅が立ち上がる。 「博雅?」 晴明が博雅を見上げた。その顔が険しいのに驚く。 「用を、思い出した。帰る」 「博雅!おいっ!」 慌てて立った晴明が、身を翻そうとした博雅の袖を捕えた。 その腰に手を回して引き寄せ、顔を 覗き込む。 「なに怒ってるんだよ」 「別に……怒ってなぞいない」 そう言いながらも、博雅の唇は少しへの字になっている。 「こんなに澄んだ月の夜なのに、独りで酒を飲んでいろと言うのか?」 「……式がいるだろう」 顔を背けて言う博雅のうなじを目の前にして。その表情が見たいと晴明は思った。 背後で薫が立ち上がった。気配を感じた博雅が肩越しに振り返る。 ゆらりとその姿が揺れたと思うと、ばらりと金の花が床に散った。見る間にその花も砂のように 崩れて消えていく。 後に残るのは、その香りのみ。 「式はみな、還した……この屋敷には、今は俺とお前だけだ」 それでも俺を独りにするのか、と晴明が訊ねる。博雅は返事が出来ずに黙り込んだ。 「笛を吹いてくれないか……今宵は月が近い。嫦娥に届くかも知れんぞ」
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