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 富士五湖と呼ばれる富士山を取り巻くように点在する五つの湖の中で、山中湖は最も大きく観光客も多い。もちろん山中湖の湖畔から見える富士山は絶景と聞こえが高いのも観光客が多い理由だろう。周辺の標高はおよそ一千メートル。標高の高さ故の空気の薄さを、敏感な人間なら感じるかもしれない。 そして、今ならばまだ十一月だというのに、底冷えする寒さを誰しも覚えるにちがいない。一都六県から近い避暑地としての賑やかななりはひそめてしまっており、夏場のにぎやかさをうかがい知ることはこの時期には不可能だ。   車から下りて身震いをした河口高峰(かわぐちたかみね)は東京とは雲泥の差の気温の低さを痛感していた。  夕方、まだ明るいのに霧が出ているようだった。標高から考えると、海抜〇メートルの場所からこの霧を見れば、きっと雲にしか見えないだろう。  この雲の中のどこかで、彼女は暮らしているらしい。
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