養魚結縁

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 無月は、松都(開城)に暮らす士大夫家の子息である。科挙に備えて日々机に向かっていたが、思うような成果が上がらなかった。行き詰まりを感じた彼は、気分を変えようと賑やかな都を離れてみることにした。  景観を楽しみながら足の向くままに進んでいった無月は、いつのまにか溟州(江陵)に行き着いた。景勝地が多く、また雰囲気も良いように感じられた無月は、この地が気に入り暫らくここに滞在することにした。  適当な宿泊場所を見つけ、旅装を解いた彼はさっそく付近の散策を始めた。宿の裏側に廻ってみると大きな池があり、その辺で一人の娘が魚に餌をやっているのが見えた。娘はたいそう美しく、無月は心を奪われてしまったが、どうしたらいいか分からなかった。  翌日、再び池の辺に行くと娘の姿があったので、無月は思い切って声を掛けてみた。娘は、初めは訝しげな表情を浮かべたが、すぐに彼の態度や話しぶりに好感を抱き打ち解けていった。 「……私は無月と申しますが、あなたは?」 「蓮花と申します。」  お互い名乗りあった二人は、それから毎日、池の辺で会うようになった。そして、ある日ついに無月は求婚した。蓮花も彼のことを憎からず思っていたが、 「女はむやみに他人に従うことは出来ません。」 と応えた。予想外の返事に無月は 「では、いったいどのようにしたらよいのか?」 と尋ねた。 「無月さまは今は勉強中の身の上。どうぞ試験に合格なさった後に無月さまの御両親から私の父母にお話し下さい。両親の許しが得られたら、それに従いましょう。」  理に適っている蓮花の言葉に納得した無月は、自宅に戻り勉学に専念することにした。  いよいよ都に発つ日、無月が  「科挙に合格したら、すぐにお知らせしますので、どうか、それまで待っていて下さい。」 と言うと、蓮花は涙を流しながらも首肯いた。  松都に帰った無月は、日々、学問に励み、いつしか数年の歳月が流れた。そして久しぶりに科挙が行なわれ、無月は見事合格した。 ― これで蓮花と一緒に暮らせる。  無月にとっては、試験合格よりもこちらの方が嬉しかった。  一方、一別以来、無月から何の便りも無い蓮花は、不安な日々を送っていた。 ― 都に帰ったら、もう私のことなどお忘れになってしまわれたのだろうか。いや、無月さまはそんな方ではない……。  
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