エピローグ④《桜木真司&水瀬レイナ》

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「あっ!やっぱりここにいた!」 レイナの声が背後から聞こえてくる。振り返ると、レイナが展望台の階段を一段飛ばしでのぼってきているのが見えた。のぼりきるなり、真司の横に並んだ。 「そっか。『トイレに行く』って言ったのが嘘だとバレてたのか。レイナの前では嘘はつけないな」 真司は肩をすくめるが、レイナの耳には届いてなかったらしい。レイナは展望台から見える景色に目を奪われていた。眼下には、自分達の住む地域の町並みが、海のように広がっている。 「本当に綺麗……。死月ロワイヤルは確かに辛かったけど、もしあれがなければ、私達はこうして出会うこともなかったし、私もこの景色を()()ことは出来なかったんだよね」 春の香りを含んだ風が、レイナの髪を優しく撫ぜる。何かを見つけたのか、「あっ!」と声を上げた。 「あそこって、前にみんなと行った公園だよね?」 レイナがさす指の先には、一年前、龍之介が成仏した公園がある。遠目ではっきりとは見えないが、今は春休みということもあり、子供達が楽しそうに遊んでいる。どうやら、龍之介が成仏したことにより、お化けが出るという噂がなくなって、元の活気を取り戻したらしい。 「そう言えば、結局あれってどうなんだ?いい加減、教えてくれよ。もう記憶は戻ったんだろ?」 真司が思い出したようにレイナに聞く。 「えー、全然思い出せないー」 レイナはいつも通り、知らんぷりを貫く。 記憶が戻った今、レイナは龍之介のことを完全に思い出したはずだ。だから、レイナが龍之介にラブレターを貰ったとき、真司の推理通りに両思い(すれ違い)だったのか、それとも本当に告白を断っていたのか。それを何度も聞いてるのだが、レイナは頑なに教えてくれない。 「レイナのケチ」 ちぇっ、と拗ねながらも、真司はポケットから一枚の紙切れを取り出す。一年前、あの公園で龍之介に描かせた犬の絵だ。四年生で死んでしまったが、龍之介もまた、49期生の生徒ということに変わりはない。彼にも今日の行事に参加する資格はあると思い、これを持ってきた次第だ。 ……それにしても、本当に下手くそだよな、これ。
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