〈最終章〉 受胎

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 この行徳も甚大な被害を受けました。  特に過去の住民運動のために総武線が停車しない行徳の街は、この災害に追い討ちをかけかれて、関東一円から切り離された陸の小島のようになってしまったのです。  そうした中で、私どもの店でも、行き場を失った子供たちを多く一時避難させておりました。  やがて情報が少しづつ入るようになるにつれ、ひとり、またひとりと親たちが子を迎えに来ましたが、とうとう、その引き取り手がみな亡くなったと確認された子供が、三人ばかり残ったのでございます。  役場の世話人が孤児の受け入れ施設を案内してきてくれたけれど、その話に聞き耳を立てるあの子たちの、すがるような目といったら……。とても手放すことなんてできませんでした。  旦那様もおかみさんも、大旦那様も、騒がしい日々を何だかんだ楽しくお過ごしのようです。  旦那様は、まだ実子を持つ夢を諦めてはいないそうです。  でも私は、自分の体がもう子供を望めるそれではないと感じています。  ですが、分かりません。  慈善院から一生出られぬものと私が私を諦めた時でも、あの人はそれを許さなかった。旦那様が諦めてしまわぬ限り、叶わぬことなどないのですから。  だから分かりません。
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