#1. 紳士と朝食

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やあ、諸君。私だ。 突然だが君たち、 "好きな子ほどイタズラしてしまう" という感覚を覚えているかい? 私は妻と結婚して8年になるのだが、 いまだこの感覚にさいなまれていてね。 今日も思わず妻のコーヒーを、 全て醤油に入れ替えてしまったよ。 お、丁度妻が起きてきた。 お寝坊さんだなあと言うと、 朝の挨拶はおはよう、でしょ? とたしなめられた。 はぁ…愛しい… 二人きりの優雅な朝食。 妻はその細い手でコーヒーカップの柄をふわりとつまんだ。 そして軽く目を閉じて口をつけ、醤油を盛大に吹き出す妻。 醤油まみれになったテーブルクロスを見てドン引きしていると、妻はガハッ、ゴホッと醤油を吐き出しながら、ヨロヨロと冷蔵庫のコーラのフタを開けた。 ぬかりはない。もちろんこちらも醤油だ。 二回目はガブ飲みだったらしく、妻は先ほどよりも豪快に醤油を撒き散らした。 地面をもがき苦しみながら転げ回る妻の姿は、絵面(えづら)的に悲惨だった。 私のコーラはどこ?と妻の涙目が訴える。 ようやく私はネタばらしをした。実は醤油とコーラのボトルを入れ替えていたんだよと。 妻はじゃあコーラは醤油のボトルに入っているのねと、醤油のボトルをラッパ飲み。 当然、醤油ボトルの中身は醤油である。 醤油をラッパ飲みするなんて、今日はどうしたのと半笑いで尋ねると、 妻は私めがけて硫酸をバケツごとぶちまけてきた。 ハハッ、目がマジだ。お茶目だろう? その日以来、妻はコーヒーかコーラが注文できる寿司屋に行くときは、必ず硫酸を持参するようになった。 次は茶葉とワサビを入れ替えておこうと思う。
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