君に遺す物語

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「……さあ、ちゃんと目をつむって。ズルはだめだよ?」  いつものように僕は、愛娘の未来(みく)のベッドの傍らに腰を下ろし、布団をかけてやった。 「はーい。じゃあパパ、『だいすき』読んで」  鼻まで布団にもぐった未来が、これもまたいつもと同じ催促をする。 「え、昨日も『だいすき』だったよ? 今日は『子ぐまのポウとヒヨドリのメッチ』にしようと思ってたのに」 「それは明日。『だいすき』がいいの」 「わかったよ」  慌てず騒がず、僕は膝に置いた絵本を上下チェンジしてページを開いた。もしかしたらそう言うかも、と二冊用意しておいて正解。  『だいすき』は僕にはちょっと理解できないチープな絵の動物がたくさん登場する、未来のお気に入りの絵本だった。 「じゃあ読むよ。――お友達の好きなところを教えてくれるかな。  ルイは同い年で幼馴染。小さいころから一緒にいたんだ……」 「パパぁ、ルイの絵が見たい。目、開けていい?」 「ダメだよ、それじゃいつまでたっても寝ないじゃないか」  本当はもう少し起きていて欲しい。  こうして未来のまだ産毛のような細くて柔らかい髪を撫で、桃のような頬に触れ、水晶のような瞳を覗き込む……この時間が僕にとってかけがえのない至福の時間だから。  自分がこんな幸せを授かるなんて、考えた事もなかった。
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