さん

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午後の授業が終わり、教室の後ろへ行く。マフラーを首にぐるぐる巻いて、コートを着込む。 背後からにょきっと手が伸びてきて、ボタンが填められていく。僕はその手を見ながら手袋をした。 教室を出て、昇降口へ行く。背後になんかいるけど、きっと気のせいだ。 だけどほんの少しだけ焦っていて、靴に履き替えて歩き出そうとしたところで、前のめりに転びそうになってしまった。 「危ないなー。家まで送る?またおんぶしようか?」 「いい。大丈夫だから離れろ」 後ろから抱き込まれるように支えられ、ぞわりと悪寒が走る。 なんだか忠志が近くにいると、毎回背中がぞわぞわして嫌だ。 「でもトモちゃん、今朝また変なこと考えてたでしょ?」 変なこと?と疑問に思って忠志を見上げたら、いつもの笑顔を浮かべていた。 「化け物、って」 「お、思ってない!勘違いだろ!」 「いーや。あれは絶対そう思ってましたー。ああ、もうほんっとショック。トモちゃんにそんなふうに思われてすっごく悲しい。あーあー、どうしようこの悲しみと苦しみ。ね、だからさ」 慰めて、と耳に直接吹き込まれるように言われて顔が熱くなる。こいつはっ。 「も、言わない。誰にも言わないから」 「ん?」 「忠志が擬態してるなんて、誰にも言わない!」 「え?」 きょとんと首を傾げる忠志の腕から、身をよじって抜け出そうと暴れる。 「もう、ほんと言わないから離せよ!」 「えーと?あれ、マジかトモちゃん…まさか本気で俺が化け物だと思ってるの?」 「だ、だって、でなきゃおかしいだろ!」 「うーん…これは想定外。どうすっか」 ばたばた暴れる僕の腹を、片手で抱き込んだまま忠志は空を見上げた。…宇宙人とかじゃないだろうな。やめろよ?変な電波飛ばしてたりすんなよ? 「お、夫婦喧嘩かー?」 「えー、違うよー。また明日ー」 横を通り過ぎる集団に、忠志はにこやかに手を振っている。僕は助けてとその集団に手を伸ばしたが、仲良くなーなんて手を振りながら言われてしまい脱力した。
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